2005 年 8 月の履歴(もしくは日誌)


2005 年 8 月

8 月 20 日

共感をエミュレーションするシステム化型の脳

友達から愚痴のような話を聞かされるとします.その時にぼくはその人の不満がどこから来るのかを分析して,別の視点から考えたらその不満はもっと違って見えるのではないかとか,どのようにその不満を解消したら良いのかとかそのような事を考えます.その考えをそのまま口にして良い場合もありますが,そうでないことも実は多いという事が後になってから分かって来ました.話題についての意見や問題についての解決策を求めて相手はぼくに話をしているのではなくて,単に共感して欲しいと思っている場合があるのです.いつでも話に本当にそのまま共感できるわけではありません.だから共感した振りをします.

「それは大変だったね.」「それは辛かったね.」「それはひどいね.あなたが怒るのも,もっともです.」

それがコミュニケーションスキルってものかなと.

会話は予測をもとにして行っています.このように働きかければ相手はこのように反応するはずだという予測.

一番簡単なのは自分自身を相手にした予測.
でも,普通は自分以外の人間と会話をするのですから,自分自身と相手が異なることによって予測とはずれが生じるわけです.
ですから自分と異なる文化,異なる考え方,異なる感じ方をする人との会話は難しいのです.
会話中に相手のモデルを想定して,反応を予測して会話をする.
相手をモデリングするのがより正確なら,よりうまく予測できるわけです.
会話中に,モデルと実際の相手のずれを感じたら,より現実にあうようにモデルの修正を行います.

もちろんそんなことを強く意識しながら生活している訳ではないですが.

先月,この会話のモデルについての話をする機会がありました.ぼくは情報交換型の会話と共感型の会話があって,それらはそれぞれかなり違った会話の形であって,それぞれ人によって得意な型があるのではないかと言いました.それについては,女性には共感型が多く,男性には情報交換型が多いのではないかということになりました.

それで共感型が苦手な人は,独自のやり方で共感型の会話をエミュレーションしているのではないかという話に発展.

その話題の時に「火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者」という本の事が話題になり,自閉症の人が共感を理解できず,社会に適応するのに大変な努力をしていて自分の事を「火星に降りた人類学者のような感じ」と表現したそうだ.

その後で,本屋にいって何気なく日経サイエンスを手にしたら,「やっぱり違う 男と女の脳」という記事があったので買ってみた.さらにその日経サイエンスのブックレビューで「共感する女脳、システム化する男脳」が紹介されていたので,それと同じ筆者の「自閉症とマインド・ブラインドネス」も購入.

共感する女脳、システム化する男脳」はなかなか面白い本でした.ぼくはもともと脳がどのように物事を認識しているのかという事に興味がありました.

偏見が生じないように慎重に話が展開されていました.システム化に優れたタイプの脳と共感に優れたタイプの脳とにタイプを分ける事ができるとか,男性にはシステム化に優れたタイプが多く,女性には共感に優れたタイプが多いとか.もちろんそれぞれ個性の範囲で女性でシステム化が得意だったり男性で共感に優れた人もいるんですけど.でも分布には性差があり,それらがどこから生じるのかなどを探る内容でした.この本では共感がうまく働かない障碍として自閉症をとらえていて,極端にシステム化に優れたタイプの脳と自閉症についても書いてありました.

この本で書いてある話は,「情報交換型の会話と共感型の会話」って話題に関連していてなかなか面白かったです.

次に「自閉症とマインド・ブラインドネス」の方が,脳の中にはモジュール化されている機能がいくつかあり,心を読むという機能は 4 つのモジュールからなっているという仮説について説明した本でした.そして自閉症ではこの 4 つのモジュールの 1 つ,もしくは 2 つに障碍があるのではないかとしていました.ぼくは

人間が生まれて来た時に,はじめから脳にはどこまで機能が備わっていているのか,人類としておよそ共通に生得的な部分はどこまでなのかという疑問をもっていたのですが,それについてある程度の回答が得られておもしろかったです.この本でも,自分の事を「火星に降りた人類学者のような感じ」と表現した自閉症の人の話が出て来ました.学術的な本の中では自閉症というのはこういう特質があるという感じでたんたんと語られているので,あまりその障碍について良くわかりませんでした.

本屋で「ぼくのこともっとわかって!アスペルガー症候群―小・中学校の事例と医師からの解説」っていう本を見つけて,買って読んでみました.自閉症といってもいろいろあって,その症状の程度の分散から自閉症スペクトラム障碍っていう考え方があるそうです.アスペルガー症候群はその自閉症スペクトラム障碍の中の分類です.自閉症スペクトラム障碍は生得的な障碍で,親の育て方とか育った環境とは全く関係ないのですが,なかなか世間一般には知られていないし誤解と偏見も多いようです.で,この本はアスペルガー症候群の子供と,その子を支える周りの人達の話です.2 人のアスペルガー症候群の人の話が紹介されているのですが,それぞれとても興味深い話でした.この本では実在の子供の大変した困難な状況をそれを支える人の立場から語る物語になっていて,「自閉症とマインド・ブラインドネス」のような学術的な話の中のとは,まったく違った現実感を持った話でした.

ここまで書いてみて,なんの結論もないのですが,あれからその話題関連でこれだけ本を読みましたよっていう報告でした.

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