2006 年 5 月の履歴(もしくは日誌)


2006 年 5 月

5 月 18 日

パソコン通信ってのがあった/「みんなの場」から「オレの場」へ

ぼくがパソコン通信を利用した期間はそれほど長くないです.NIFTY-Serve に入っていました.昔のパソコン通信を利用したことが無い人に想像できないでしょうが,パソコン通信っていうサービスには,好き勝手に書いて皆に読んでもらうっていう「自分の場所」が提供されていませんでした.

パソコン通信とはなんだったのか.これはいろいろな文が書かれていると思います.
パソコン通信では,サービスのホストに対して,パーソナルコンピュータから電話回線などを使って接続し,そのホストの提供するサービスを利用するという仕組みでした.大抵は会員登録し,会員に対して ID が割り振られ,皆でやりとりする場に対してそれぞれがそれぞれの ID で書き込みます.その時に NIFTY-Serve なら自転車フォーラムとか,Mac Users フォーラムなど,テーマごとにフォーラムという名で場が設けられて,その下に会議室という名前で掲示板のようなものが動いていました.会員が好き勝手に新しいフォーラムを作る事もできなかったし,フォーラム内でも自由に会議室を作る事はできませんでした.フォーラムあたりの会議室の数も決まっていました.20 個くらいだったかな.

仕組み的な違いや技術的な違いもいろいろあるんだろうけど,文化的な違いもあると思います.

繰り返しになりますが,パソコン通信っていうサービスには,好き勝手に書いて皆に読んでもらうっていう「自分の場所」が提供されていませんでした.皆がやりとりするフォーラムのような「みんなの場」と,個人間でやり取りするメールやチャットのようなサービスがあっても,現在の Weblog (ブログ) のような「自分の場所」というものが提供されていなかったのです.

今の個人の Web ページや個人のWeblog (ブログ) は,好き勝手に書いて皆に読んでもらうっていう「自分の場所」だし.mixi などのソーシャルネットワークサービスも「自分の場所」が基本になるサービスですね.

パソコン通信では皆に書き込んでもらう場を運営するってのも,限られた人に与えられた特権でした.NIFTY-Serve で言えば特定の話題の会議室を開くだけでも,単なる会員では要望を皆の議論の場に出して,さらにフォーラムのまとめ役にお願いするようなことをしなければなりませんでした.

それが今のインターネット上のサービスだったら,自分の Web サイトに Web 掲示板を設置するとか,レンタルの Web 掲示板サービスを利用するとか,自分が好きなだけ「場」を作る事ができます.Weblog なんかは,自分が話題を提供してその話題に対してコメントを受け付けるという形ですから,「場」を作るという目的に対しては究極の形かもしれません.

パソコン通信では,「みんなの場」はそうそう勝手に作る事ができなかったので,あるテーマについての情報は特定の「場」に集約するようになってました.場を設けるのに制限があったので,自然と情報が集約したのです.

今のインターネットの利用では,そういう集約の仕組みが弱いのではないかと感じます.むしろ小さな「オレの為の場」がぽつぽつできて,発散していく感じ.

mixi ではそれが顕著だと思います.特定のテーマについてやりとりするコミュニティというものがありますが,それは誰でも好きに作る事ができます.だから同じ「自転車」がテーマのコミュニティが沢山あるとか,「自転車」と「折りたたみ自転車」のコミュニティが関連づけされていないという事になってしまいます.もちろん「みんなの場」ができる事もありますが,mixi 側の「みんなの場」をサポートする力はとても弱いです.どちらかというと,発散/分散して混沌といろんなコミュニティが乱立していることの方が目立ちます.

ソーシャルネットワークサービスとパソコン通信が似ているという話はこれまで何度も聞きました.ぼくも似ている部分があると思います.でも違う部分に注目すると,「みんなの場」が基本のパソコン通信と「オレの場」が基本のソーシャルネットワークという構図があるのではないでしょうか.

「みんなの場」が衰退し,みなが「オレの場」に向かっているように感じます.

fj とか netnews とか,メーリングリストが,「みんなの場」が基本で,

Web 掲示板とか Weblog とかソーシャルネットワークサービスが,「オレの場」が基本.

ちなみに 2 ちゃんねるって,「みんなの場」が基本で,パソコン通信に似ていると感じます.

「みんなの場」ってのになじめない人もいます.「みんなの場」に慣れている人の「ルールがある」っていう前提を受け入れられないので,両者の間のコミュニケーションが失敗する.またある「みんなの場」のルールがインターネットのどこでも通用する共通のルールだと勘違いすると,やっぱり他の「みんなの場」の人との間で,コミュニケーションが失敗する.なんにしても「オレの場」でオレルールのほうが楽だから,みな分散する方向に向かっているのでしょうか.

みなが「オレの場」に向かっている中で,もう一度,情報と知識を集約してコミュニティを構築するサービスが出現したらとても面白いと思います.mixi はそういうものではありませんでした.はてなはてなブックマークなんかは,「オレの場」を「みんなの場」につなぐようなサービスとしての面白さがあると思います.

ここギコで語られるオープンな相互接続性のあるソーシャルネットワークサービスってのも,「自分の場」が基本でしょうけど,オープン性を生かした「みんなの場」の仕組みをどう作るかってところが面白いテーマになりそうですね.

最近 mixi に登録した ganymean さんは Ganylog で,mixi と NIFTY-Serve が似たもんだと認識していると書いているけど,ぼくは mixi は NIFTY-Serve とはずいぶん違う文化だと思います.

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